ウォーレン・バフェット氏が日本の商社株に注目する理由 - Journamics

ウォーレン・バフェット氏が日本の商社株に注目する理由

ウォーレン・バフェット(アメリカ)氏は、”投資の神様”として日本でも知られる。彼が率いるバークシャー・ハサウェイ社が、日本の5大商社(三菱商事、三井物産、伊藤忠商事、住友商事、丸紅)株を買い増したことが2025年3月17日に提出した変更報告書で明らかになった。

具体的には、三菱商事は8.31%から9.67%、三井物産は8.09%から9.82%、伊藤忠商事は7.47%から8.53%、住友商事は8.23%から9.29%、丸紅は8.3%から9.3%に引き上げられており、2023年6月以来の買い増しとなった。


なぜ日本の商社株に?

バフェット氏の商社株への投資は2019年に始まっている。その理由について、直近では2025年2月の「株主への手紙」で明かしている。

まず第一に、投資開始時の商社株は株価純資産倍率(PBR)が低く、配当利回りが高い「割安株」であった。彼はこれを「極めて安価」と評し、自身の「適正な価格で素晴らしい事業を買う」という原則に合致すると判断した。
さらに、商社は石油や天然ガス(LNG)などの資源ビジネスで安定したキャッシュフローを生み出し、脱炭素関連の成長性も秘めている。
加えて、株主還元に積極的な経営姿勢や、円建て社債を活用した効率的な資本運用も、バフェットの評価ポイントだ。低金利の円で資金を調達し、配当収入や為替差益で大きなリターンを得るこの手法は、彼の賢さが光る。

実際、バークシャーの初期投資コストは138億ドルだったが、2024年末時点で市場評価額は235億ドルに達している。バークシャーの株式ポートフォリオ全体(約3,750億ドル)で、商社株が占める割合は概算で約6~7%程度。主力のアップルなどに比べれば小さいが、長期的な信頼を裏付ける重要なポジションと言える。ちなみに、バークシャーは株式以外に現金や現金同等物を3,340億ドル(約50兆円)も保有する巨大企業だ。


「エネルギー株」という視点

また興味深いのは、バークシャーが商社を「エネルギー株の一種」と見ている点だ。商社は資金力とグローバルネットワークを駆使し、他国の資源開発に投資して資源利権を取得する。そして採掘からトレーディング、輸入までを一貫して手がける。

例えば、三菱商事はサハリン2のLNGプロジェクト(ロシア)に参画し、日本の電力需要を支えている。このビジネスモデルは、米国のエネルギー企業が油田を開発・生産する姿に似ており、バフェットが価値を見出した理由の一つと考えられる。

商社が資源開発に関与することは、現地国と日本にWin-Winの関係をもたらす。現地国にとっては、日本の資金や技術で採掘が安定し、インフラが整備され、経済発展につながる。また、日本企業が確実な買い手として存在することで、プロジェクトのリスクが減り、長期的な協力関係が築かれる。

一方で日本にとって、商社は「資源不足の再来」を防ぐ戦略的な存在でもある。第二次世界大戦前、資源不足が国の危機を招いた歴史を教訓に、戦後はエネルギー安全保障が国家戦略となった。商社は石油の99%、天然ガスの97%を輸入に頼る日本で、グローバルなサプライチェーンを握り、経済の生命線を守っている。


バフェット氏の投資哲学との一致

以上のように、バフェット氏の投資哲学――「理解できるビジネス」「経済的堀を持つ企業」「割安で買う」「長期保有」――に、商社株は見事に当てはまる。資源取引の仕組みは明確で、グローバルネットワークという「堀」を持ち、そして「割安」であった。

公式に「5社の株式を非常に長い期間保有する」と表明し、後継者のグレッグ・アベル氏が「5社の取締役会を支援する」と経営陣と対話していることも明かされている。バフェット氏にとって、商社は単なる投資先ではなく、協業も視野に入れたパートナーと見て取れる。


高度経済成長を支えた企業の再評価

直近のトレンドとして、日本の商社株だけでなく、重工業株のようなかつての「高度経済成長」を支えた企業が再評価されている。背景には、インフレによる資源価格の上昇や、日本株への関心の高まりがある。バフェットの投資は、このトレンドを先取りしたとも言えるが、彼の焦点はあくまで商社個々の価値にある。その先見性が、市場全体の注目を加速させている。

当初、バークシャーは5社の株式保有率を「10%未満」で維持することで合意していた。だが上限が近づく中、2025年2月の年次書簡でバフェット氏は、5社の同意を得て「非常に長い期間」をかけて「幾分か」保有率を増やす意向を示していた。今回の引き上げは、その計画を着実に進める一歩となった。今回の公開でも各社10%は超えていないものの、日本市場への信頼と長期的なコミットメントが感じられる動きであった。

日本にとっても、商社は資源を確保しつつ、現地に安定性をもたらす産業と外交の「架け橋」とも言える。歴史的背景から見ても、日本を支える不可欠な存在であろう。