米中覇権争い2025:世界を分断する二つの「第一主義」 - Journamics

米中覇権争い2025:世界を分断する二つの「第一主義」

世界秩序をリードしてきたアメリカと、近年急成長を遂げた中国。
太平洋の東西に君臨する2大国の動向は、2025年に入っても引き続き国際社会の最優先事項だ。


トランプ大統領の演説

2025年、米国ではトランプ大統領の2期目が始まった。就任直後から議論を巻き起こす政策や発言が相次いでいたが、そこにまた新たな事案が加わった。
2025年3月4日の「施政方針演説」だ。

この演説は約100分間という近年では異例の長さで、メディアは“政治ショー”とも評している。特に貿易戦争の再燃や移民規制の強化、政府改革の徹底を掲げ、自身が繰り返し示している「アメリカ第一主義」を鮮明にした。

演説中、民主党議員たちはトランプ政権の政策に対する反対を表明するため、「No King!-王はいらない」や「Save Medicaid-メディケイドを守れ」、「This is NOT Normal-これは普通ではない」と書かれたプラカードを掲げた。 ​

トランプ流の保護主義が国内経済や社会へ及ぼす影響に対し、根強い不安が党内外で示された瞬間でもあった。


経済面では、米中貿易戦争の再燃リスクやインフレ懸念、さらに移民政策や社会保障費の増大など、課題は山積している。

トランプ政権は「アメリカ第一主義」を貫徹しようとする一方で、過度な関税強化による米企業・消費者への悪影響を危惧する声も大きい。

加えて、脱炭素化の流れが国際的に進む中、連邦レベルでのエネルギー政策が不透明な状況が続くなど、利害調整は一筋縄ではいかない。


それでも、トランプ大統領は国境管理の強化や軍備増強を前面に打ち出し、“再び世界に君臨するアメリカ”を演出するメッセージを送り続けている。
国内政治ではリベラル派と保守派の対立が先鋭化しており、最高裁判所の判事構成から移民・中絶などの社会問題まで、政治的分断はかつてないレベルに達しているとの分析もある。

そうした状況下、強いリーダーシップを誇示するトランプ氏の演説は、自身の支持者に対しては求心力を保ちつつ、反対派との亀裂をさらに深める要因にもなっている。


対外政策と覇権の変遷

アメリカは第二次世界大戦後、冷戦期を通じて自由主義陣営の盟主として世界秩序を主導してきた。

冷戦後はソ連崩壊を経て唯一の超大国となり、1990年代には軍事・経済面で世界に圧倒的な影響力を及ぼした。

1990年代にはクリントン政権が自由貿易を推進し、同時に湾岸戦争や対テロ戦争で軍事的優位を示すなど、世界警察的な役割も果たした。


しかし、2000年代に入るとイラク戦争の長期化、リーマン・ショック後の景気停滞、さらに国内の格差拡大によって「アメリカの覇権衰退論」が浮上した。
オバマ政権はアジア重視の「リバランス政策(Pivot to Asia)」を打ち出したが、国内の財政制約や戦争疲れ、トランプ政権への政権交代などの混乱もあり、必ずしも戦略が一貫していたとは言い難い。



1期目のトランプ政権は「アメリカ第一主義」を掲げ、多国間協調から一定の転換を図った。
パリ協定離脱(その後バイデン政権で復帰)やTPP(環太平洋パートナーシップ協定)離脱など、従来の国際枠組みを揺さぶる方針を打ち出しつつ、同盟国には国防費の増額などの負担を求めた。

その結果、国際社会ではアメリカのリーダーシップに疑念が生じ、「ポスト・アメリカ」時代を想定した動きも広がった。そして2期目も、「アメリカ第一主義」という大方針に変わりはない。


中国と覇権主義

一方、中国では2025年3月に全国人民代表大会(全人代)が開かれた。目標とするGDP成長率「5%前後」、軍事費の7%超の増額が世界の注目を集めた。

また、米国の関税圧力には即座に報復措置を打ち出し、「屈しない」強硬姿勢を明確にした。これはコロナ禍や不動産不況からの回復を背景に、中国が経済の自立に自信を深めている証左だ。

AIや半導体、量子コンピュータなど先端技術分野でも対米依存からの脱却を急ぎ、軍事面でも南シナ海や台湾海峡での影響力拡大を加速させている。
習政権下では共産党による統制とナショナリズムが融合した強硬な「戦狼外交」を展開し、経済大国から「総合的な超大国」への転換を鮮明に打ち出している。


復権と拡張

中国は毛沢東時代(1949~1976年)こそ社会主義の理想を掲げながらも、国際的にはソ連とも距離を取り、独自路線を模索していた。
1978年に鄧小平が開始した改革開放政策以降は、急速な経済成長と国際社会への統合を果たし、2001年のWTO加盟で「世界の工場」として確固たる地位を築いた。


やがて2000年代以降、経済成長の成果を軍事力増強に振り向け始め、2010年代には「中国の夢」「一帯一路」構想を掲げ、アジアやアフリカ、南米などでインフラ投資を拡大。これにより中国が主導する新たな国際秩序の形成を目指す動きが可視化され、“中国型の覇権”の輪郭が明確になっていった。

特に習近平政権下では共産党による強固な統制とナショナリズムの喚起が同時進行し、国家の威信を内外に誇示する「戦狼外交(Wolf Warrior Diplomacy)」と呼ばれる強硬姿勢も顕著化している。


両国がもたらす世界的インパクト

米中という二大大国の覇権争いは、経済安全保障技術競争などあらゆる分野に波及し、新たな国際秩序の再編を促している。

  1. 世界経済への衝撃
    関税合戦の再燃やサプライチェーンの分断は、企業活動や各国の成長に大きな影響を及ぼす。
    デジタル技術やAI、半導体などの先端分野では、米中両国が“どちらの技術標準を採用するか”という選択を諸国に迫る構図が強まる。
     
  2. 安全保障のリスク拡大
    中国が軍事プレゼンスを拡大する一方、米国はAUKUS(米英豪の安全保障協力)やクアッド(米日豪印)などで対中包囲網を強化。
    宇宙・サイバー空間でも両国が競い合い、軍拡競争が進行している。
     
  3. 国際ルールや価値観の分裂
    冷戦後は、基本的に「アメリカ主導の自由主義的秩序」が前提だった。
    しかし、中国がアジアインフラ投資銀行(AIIB)を主導し、デジタル人民元の実用化を進めるなど、“中国式”の経済・金融ルールを浸透させる動きが活発化している。
    民主主義・人権を重視する西側諸国と、中国型の“国家資本主義”や権威主義モデルとの対立が深まっている。
     

こうした状況はしばしば「新冷戦」と呼ばれる。ただ冷戦期のように明確な「東西」二分ではなく、国ごとに経済や安全保障の利害で異なる立場が生まれている点がより複雑だ。
トランプ大統領の演説にうかがえる保護主義とナショナリズムの先鋭化は、世界経済を再びブロック化へ導く可能性がある。


日本の現状

日本は長年、日米同盟を安全保障の軸としながら、中国を最大の貿易相手国としてきた。この「安保は米国、経済は中国」という図式が成り立たなくなりつつある今、日本外交は綱渡りの様相を呈している。

経済面では、自動車や半導体など多くの産業が米中双方と深く連携しており、“脱中国”や“脱米国”はいずれも容易ではない。日本企業は欧米・アジア各国との複雑な利益調整とコスト評価を迫られる。

安全保障では、日米同盟強化が基本基軸となっている。特に台湾有事や尖閣諸島周辺での緊張を想定し、米軍と自衛隊の共同演習が頻繁に行われるなど、アジア太平洋地域での軍事バランスを意識した動きが加速している。

外交面では、日本はCPTPP(包括的・先進的な環太平洋パートナーシップ協定)やRCEP(地域的な包括的経済連携)など、多国間枠組みにおいて重要なプレーヤーとなっている。
一方で、米中がともに参加・協力しにくい構図ができると、これら協定自体のインパクトが限定的になる可能性も否めない。


歴史上、覇権争いはしばしば新たな秩序構築の契機となってきた反面、その過程で戦争や経済崩壊などの多大なコストを払ってきた。現在の米中対立も、国際協調をうまく活用しなければ、世界規模でのサプライチェーン混乱や軍事衝突リスクを高めかねない。

米中覇権争いの行方は未だ見通しづらいが、国際協調と柔軟な交渉力が未来の秩序を形づくる鍵となる。世界の国々がいままさに、政治・経済・社会のあらゆる面で試されている。