日本政府が2024年(令和6年)10月に実施した最新の世論調査は、アメリカ・中国・韓国の三国に対する日本人の意識を鮮明に浮き彫りにしている。
アメリカへの好感度は依然として高水準を維持する一方、中国と韓国への親近感は伸び悩む結果となった。
政治的・歴史的背景をもとに大きく揺れ動いてきた日本の対外感情はいま、どこへ向かうのか。本稿では、その動向を詳しく読み解く。
調査概要
今回の「外交に関する世論調査」は、内閣府が2024年(令和6年)10月に実施したものである。
対象は日本国内の18歳以上の日本国籍保有者3,000人。有効回答率は57.8%(1,734人)にのぼり、郵送による回答形式で行われた。
調査の目的は、国民の外交意識を把握し、今後の政策立案の参考にすることにある。
米・中・韓に対する最新の親近感
🇺🇸 アメリカ:「全世代で高い支持を集める」
✅ 親近感を持つ人:84.9%(前年より若干減少)
✅ 男性では88.5%と、より高い傾向
✅ 若年層(18~29歳)では72.7%と、他の世代に比べるとやや低め
アメリカに対しては、8割を超える人が「親しみを感じる」と回答しており、全体的に「依然として厚い支持を集める」と言える。
ただし、最も若い世代では若干数値が下がる傾向がある点は興味深い。背景として、ソーシャルメディアやニュースを通じ、国際問題に対する視点が多様化している可能性も指摘できる。
🇨🇳 中国:「親しみを感じない」が依然多数
✅ 親近感を持つ人:18.2%(前年より微増)
✅ 親しみを感じない層:80.4%で依然大勢
✅ 若年層(18~29歳)でも11.3%と低水準
中国への印象はおおむね否定的なままだが、わずかにではあるものの親近感を抱く層が増加している。しかし、依然として80%以上の人が「親しみを感じない」と回答している。
🇰🇷 韓国:「若年層での好感度がさらに低迷」
✅ 親近感を持つ人:29.0%(前年よりやや減少)
✅ 大都市部では35.2%と比較的高め
✅ 若年層では22.1%と伸び悩み
韓国に対しては3割弱が「親しみを感じる」と回答。大都市のほうが若干好意的ではあるが、全体ではわずかに縮小傾向にある。特に18~29歳の若年層での低水準が際立つ。
歴史的・政治的イベントによる大きな変動
日本の対外感情は、しばしば歴史的・政治的な事件を契機に変動してきた。今回の調査結果が示す「温度差」も、過去の経緯を振り返ることでより理解しやすくなる。
🇨🇳 中国の「大きなターニングポイント」
✅ 1989年(平成元年):天安門事件での急落
1989年6月に起きた天安門事件(民主化運動の弾圧)後、日本を含む国際社会から中国に対する批判が強まる。
日本政府は一時的にODA(政府開発援助)を停止するなど、冷却化した両国関係が世論にも反映される形となった。
✅ 2004年(平成16年):尖閣問題・反日デモで再び悪化
尖閣諸島への中国人活動家の上陸、小泉首相(当時)の靖国神社参拝や歴史教科書問題などが重なり、中国国内で反日感情が高揚。
2004~2005年には大規模な反日デモが発生し、日本国内でも中国への警戒感が上昇。親近感がさらに低下した。
🇰🇷 韓国に対する「周期的なアップダウン」
韓国への親近感は、中規模の上下動を繰り返してきた。
調査時期によって「親しみを感じる」「感じない」が入れ替わりながらも、どちらもほぼ半数前後を占める状況が長く続いている。
近年は文化面での交流(K-POPやドラマなど)が注目を集める一方、外交や歴史認識に関わる問題が浮上すると、一気に冷え込む傾向があり、不安定さを残している。
日米中韓の関係と今後の展望
今回の調査からは、アメリカへの厚い支持感がなお続く一方で、中国と韓国には慎重な視線が向けられている現状が明らかになった。
これらのデータは、単なる感情面だけでなく、外交戦略や経済・安全保障政策を検討するうえでも重要な意味を持つ。
若年層の動向
各国への親近感が、他の世代に比べて低かったり上下したりする理由は必ずしも単純ではない。SNSの普及による情報の多様化や、国際紛争の報道への接し方など、若者ならではの背景があると考えられる。
今後の注目ポイント
地域の緊張緩和または激化に伴う意識変化
南シナ海や朝鮮半島問題など、アジア太平洋地域の安定度合いによって、日本人の対外感情が再び揺れ動く可能性は十分にある。
文化・経済交流の影響
観光客・留学生の増加やエンターテインメントの流通が、親近感を押し上げる要因になるのか、それとも政治問題が阻害要因となるのか注視が必要。
まとめ
本世論調査は、長年にわたり日本の対外感情を捉える貴重なデータを提供してきた。今回の結果もまた、歴史と政治が複雑に絡み合いながら生じる「国民感情の変化」を映す鏡としての役割を担っている。
国際情勢がますます流動化するなかで、日本は米・中・韓を含む周辺国との関係をどのようにマネジメントしていくのか。日々のニュースだけでなく、世論調査の動向にも注意を向けることで、外交の行方を多面的に考えるヒントが得られるかもしれない。