石破首相、辞任表明会見「然るべきタイミングは今」 - Journamics

石破首相、辞任表明会見「然るべきタイミングは今」

2025年9月7日、石破茂首相が官邸で辞任を表明した。党則6条2項に基づく、総裁が欠けた場合の「臨時総裁選」を幹事長に指示し、議員・都道府県連の過半による要求手続(6条4項)は不要と明言した。自民党はただちに新総裁選出の段取りに入った。

この退陣は、日本の統治が今なお「長期政権による安定」という発想よりも「手続きと合意で回す、代替可能な統治」を重視することを示している。少数与党の下で、石破首相は政策実装の連続性を最優先し、党内分断の火種を制度で消火した。同時に外部環境、とりわけアメリカとの「通商・関税・安全保障」が国内政治の寿命を規定することも露わになった。

自民党に問われるのは、人物の再配置ではなく、政策過程の更新だ。政治資金の透明化、分配と成長の再設計、地方の稼ぐ力の底上げ――この三点を貫けるか。ポピュリズムに流れるか、公共性を掲げる保守に戻るか。今回の退陣は、その分岐点に置かれたマーカーである。


石破首相の会見を読み解く

首相は会見で「地位に恋々とするものではない。やるべきことを成した後、然るべきタイミングで決断する」と述べ、党内分断の回避を優先した決断であることを強調した。

引き金は米国の関税措置をめぐる交渉の「区切り」だ。先週金曜、投資に関する日米了解覚書が署名され、大統領令も発出。帰国した赤澤担当相からの直接報告を受けて、首相は「一つの区切りがついた」と判断した。交渉継続中は辞任論を「国益に反する」として封印してきた経緯を明かし、「決断のタイミングがなぜ今なのか。それは関税交渉の前進、成果だ」と位置づけた。

同時に、参院選敗北の責任は最終的に総裁である自分が負うと重ねて表明した。前夜の菅副総裁と小泉農相の来訪については詳細を語らなかったが、「党の分断はあってはならない」という副総裁の主張に言及し、党内の亀裂回避が判断の核心にあったことをにじませた。次期総裁選への不出馬も明言し、後継に「関税合意の実施、賃上げの定着、防災庁の設立、農政改革の加速」を託す考えを示した。


この一年弱の政権運営では、少数与党のもとで法案68本中67本、条約13本すべてを成立させたと成果を列挙した。賃上げでは最低賃金の全国加重平均が1,121円、引き上げ額66円・6.3%増と過去最大の伸びを記録し、7月の実質賃金は7か月ぶりにプラス転換。いわゆる「103万円の壁」の引き上げによる所得税減税や、低所得者給付金など家計支援策も挙げた。防災では人員・予算を倍増させ、専任大臣の下で来年度に防災庁を創設する方針を明確化。コメ高騰を受けて増産へ政策転換し、生産者所得の確保と価格の安定を狙うと語った。外交では、89の国・機関と150超の首脳会談を重ね、日米同盟の深化とアジア・欧州・アフリカ各国との連携強化を成果として示した。

一方で、政治とカネへの不信払拭は「最大の心残り」と認め、「自民党はけじめをつけなければならない。真の『解党的出直し』が必要だ」と自省を込めた。安全保障では自衛官処遇改善を進めつつ、核抑止の信頼性やシェルター整備を含む抑止力強化の必要性を強調。中国・ロシア・北朝鮮の動向を踏まえ、「我が国の防衛力を自主的に強化しつつ、対話による信頼構築にも取り組む」と述べた。拉致問題の未解決は「痛恨の極み」とした。


この間の「政治空白」批判には反論した。関税交渉の帰趨が見えない中で辞任論を口にすれば「国益に反する」ため、結果が制度的に確定する大統領令まで持ち込むことを優先したと説明した。衆院解散の可能性に関しては、政府機能の停滞回避を優先して見送ったと明かし、比較第一党の責任として他党との連携も模索してきたと述べた。世論で続投支持が広がった現象については、「私への評価というより『党内の争いではなく仕事をせよ』という意思だ」と受け止めを語った。

辞任は内閣総辞職を伴うが、新総裁が選ばれるまで現内閣が職務を継続する。自民党は党則6条2項に基づき臨時総裁選の実施手続きに入る見通しで、選管が日程や方式を固める。与党が衆参で過半数を割る状況下、次期政権は国会運営の綱渡りを前提に、関税合意の実施、賃上げの持続、物価と分配の設計、防災庁の立ち上げ、農政転換といった課題処理の速度を問われる。

石破首相は「残された期間、全身全霊で国民の皆様が求める課題に取り組む」と締めくくり、官邸を後にした。