"iPhone 16e" が象徴する-AppleとQualcommの“友情”の終焉 - Journamics

“iPhone 16e” が象徴する-AppleとQualcommの“友情”の終焉

2025年2月19日、Appleが新型iPhoneの「iPhone 16e」を発表した。

機能紹介は公式サイトやテック系メディアにゆずろう。
本記事ではiPhone 16eに搭載された「とある部品」から、Appleの経営戦略と、今後の影響について考察していく。

AppleとQualcomm

はじめに前提として、Qualcommという企業がある。

スマートフォンの通信技術に欠かせない「モデム」の開発をリードする企業で、強固な特許群と高い技術力を武器に、サプライチェーン中に君臨している。当然、Appleとの関係も深い。


ただ実はAppleは、とQualcommと長年にわたり協力と対立を繰り返してきた。特に両社間の訴訟合戦はスマホ業界の勢力図を左右する大事件として注目を集めた。

その対立の背景には、特許ライセンス料をめぐる深刻な摩擦と、Appleが進める内製化戦略の存在がある。

最新モデル「iPhone 16e」で登場したApple独自のモデム「Apple C1」は、両社の“友情”に終止符を打つ象徴的な一手ともいえる。

本稿では、両社がどのように激しい法廷闘争を繰り広げ、なぜAppleは自社開発モデムに舵を切ったのか。
そしてそれがスマホ業界全体にもたらす衝撃を解説する。


訴訟の発端:特許ライセンス料をめぐる対立

AppleとQualcommが深刻な対立に陥った大きな要因は、モデム技術に関する特許ライセンス料である。

Qualcommはスマートフォンの通信に欠かせない特許群を多数保有しているため、スマホメーカー各社はQualcommにロイヤリティを支払わねばならない構造になっていた。

Appleも初代iPhoneから長年にわたりQualcomm製モデムを採用し続けていたが、2017年頃から特許ライセンス料があまりに高額だとして不満を募らせるようになった。

AppleはQualcommに対し「不当なライセンス料を押し付けている」と主張し、支払いを一部停止するなど強硬策に出た。

これに対してQualcommは、「Appleが契約違反を犯している」「自社特許を侵害している」と反撃の訴えを起こした。

こうして世界各地で訴訟が乱立する事態になり、両社の関係は完全に険悪化した。これらの裁判では、モデムの性能のみならず、特許ライセンスの適正価格や企業間契約の是非が問われる格好となり、スマホ産業にとって極めて重要なテーマが争点化したのである。


急転直下の和解とIntelモデム事業買収

そんな泥沼の争いにも一時的な終止符が打たれたのが、2019年4月の電撃的な和解である。

AppleはQualcommに数十億ドル規模の和解金を支払うことを受け入れ、全世界で進行していた訴訟を取り下げることで合意した。

この背景には、次世代通信規格5Gへの対応が迫られる中、Intel製モデムの開発が遅れたという事情がある。仮にQualcommとの関係が修復できず5G対応が間に合わないとなれば、iPhoneの競争力は著しく低下する恐れがあった。

最終的にAppleは、和解直後にIntelのスマホ向けモデム部門を約10億ドルで買収した。これは約2,200名のエンジニアや莫大な特許資産を手に入れる大型ディールとなった。

Appleが自前でモデム開発を本格化するための布石であり、その後登場する「Apple C1」への道筋がここで固まったともいえる。


Appleの内製化戦略:すべてを自社でコントロールする思想

Appleがモデム内製化に踏み切った根本的な理由には、同社の垂直統合志向がある。

Appleは創業時からソフトウェアとハードウェアを一体で最適化することを重視してきた。独自OSであるiOSと、自社開発のAシリーズチップを組み合わせることで、高パフォーマンスと使いやすさを両立させてきたのだ。

モデムは通信の要であり、近年では5Gのほかさまざまな通信方式への対応が重要視されるようになっている。部品メーカーからの調達に頼ると、製品計画や新技術への対応スピードで制約を受けかねない。

そのためAppleは莫大な投資を行ってでも、モデムを自社で掌握する意義を見いだしたわけである。

過去にもAppleは、PowerPCからIntelへ、そしてIntelから自社開発のMシリーズへとMacのプロセッサを移行させるなど、「主要コア技術は社内に取り込みたい」という姿勢を一貫して示してきた。

この「何でも自分でやりたい」という思考は一見非効率に見えるが、ユーザー体験とブランド価値を最大化するための同社独自の哲学と言える。


「Apple C1」が象徴するQualcommとの“友情”の終焉

そして2025年、AppleはiPhone 16eに初めて「Apple C1」と呼ばれる自社開発モデムを搭載した。

Appleが自社製モデムを実装し始めた以上、今後はQualcommへの依存度が大幅に減っていく可能性が高い。
Qualcomm側も将来的な供給シェアの縮小を見据えており、「Appleへのモデム供給は2026年には20%程度まで落ち込む」との見通しを示している。

この展開は両社の長年の“友情”が事実上終焉を迎えたことを暗示していると言えよう。


スマホ業界とビジネス戦略への影響

AppleとQualcommの訴訟劇とその後のAppleの内製化が、スマホ業界全体に波紋を広げるのは間違いない。

まずQualcommはAppleという大口顧客を失うリスクにさらされる。SamsungやGoogleなど他のスマホメーカーも、Appleの戦略をどう評価し、どう競争力を維持するか再考を迫られるだろう。

ビジネス一般においても、「自社開発か外部調達か」という判断は企業戦略の根幹をなす。Appleの場合は膨大なリソースがあるからこそ内製化が成り立つが、それでも開発リスクや膨大なコストを負うことになる。

一方で外部調達なら初期投資を抑えられ、最新技術を迅速に導入できる長所もある。

どちらを選ぶかは企業規模、コア技術の重要度、市場競争の激しさなど多面的に判断すべきだということが、今回のAppleとQualcommの事例から見えてくる。