2025年に開幕を控える「EXPO2025大阪・関西万博」は、湾岸エリア・夢洲(ゆめしま)を舞台に国内外からの注目を集めている。
一方、その先に控えるのが2029年頃の開業を目指す統合型リゾート(IR:Integrated Resort)計画だ。
万博は「一過性のイベント」だが、IRはその後も長期的に大阪経済とまちづくりに影響を与える可能性を秘めている。
万博→IRという流れを軸に、大阪全体の再開発がどのように進み、新時代の世界都市へと進化していくのか。その展望を見ていく。
1. 大阪・関西万博がもたらす短期的インパクト
万博は、開催期間中だけでなく「開催前」と「開催後」にも大きな影響を与えるイベントだ。
大阪湾の人工島・夢洲では現在、巨大なパビリオンゾーンの造成工事やアクセス交通の整備が進行中である。
- 経済効果: 大阪府試算では、万博による経済波及効果は2兆円規模とも言われ、建設・観光関連を中心に多くの雇用が期待される。
- インフラ整備: 地下鉄延伸計画や周辺道路の改修、海上輸送の活用など、万博開催をきっかけに交通利便性が格段に向上する見通し。
- 都市ブランド向上: 万博は大阪の国際知名度を引き上げ、ビジネス誘致やインバウンド観光にも拍車がかかる。
もっとも、万博そのものは開催期間が限られているため、長期的には「万博閉幕後、会場跡地をどのように活用し、大阪経済に還元するか」が重要なテーマとなる。
2. 万博後に控えるIRが本命? 長期展望と期待
万博会場の隣に位置する同じ夢洲で進められているのが、日本初となるIR(カジノを含む統合型リゾート)計画だ。
開業は2029年秋~冬を目標としており、総投資額は1兆円超。
MGMリゾーツやオリックスなど、国内外の大手企業が協力してプロジェクトを進めている。
IRがもたらす長期的インパクト
- 観光産業の拡大
ホテル・レストラン・エンターテインメント・ショッピングなどカジノ以外の要素が充実することで、ファミリー層からビジネス客まで幅広い集客が可能に。
大阪は既に関西国際空港やユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)など、強力な観光資源を持っており、更なるインバウンド需要の拡大が見込まれる。 - MICE(国際会議・展示会)の誘致
IRの柱として大規模なコンベンション施設が設置される予定。
これによりビジネスカンファレンスや見本市を大阪湾岸に集積し、平日でも安定的に宿泊・飲食需要を生み出す「MICE戦略」が可能となる。
※ MICEとは?
企業等の会議(Meeting)、企業等の行う報奨・研修旅行(インセンティブ旅行)(Incentive Travel)、国際機関・団体、学会等が行う国際会議 (Convention)、展示会・見本市、イベント(Exhibition/Event)の頭文字を使った造語で、これらのビジネスイベントの総称。 - 雇用創出・地域経済活性化
総事業費1兆円規模のIR開発は、大量の建設需要を生むだけでなく、開業後もサービス業を中心に数万人規模の雇用を生み出すと見込まれる。
また、IR周辺への新規投資や関連ビジネスの誘致が進めば、大阪全体の産業が多角化し地域経済の底上げにつながる可能性がある。 - 日本ブランドの発信拠点
安全性・清潔さ・おもてなしの質など「日本ブランド」を前面に打ち出すことで、マカオやラスベガスなど既存のIRにはない魅力をアピールできる。
世界のVIP顧客や富裕層のみならず、国内観光客にも受け入れられやすい環境づくりが進めば、リピーター確保に繋がる。 - 長期的収益の安定
万博は開催期間が限られるが、IRは「開業後も継続的に投資を回収し、利益を創出するビジネスモデル」。
万博が「短期的ブースター」だとすれば、IRは「長期的エンジン」として大阪経済を牽引する存在になる可能性がある。
3. 万博とIRの連動が生み出すシナジー
1) インフラ効果の相乗
万博に備えて進められている地下鉄延伸や道路整備は、そのままIRにも生きる。
訪日外国人観光客や国内観光客が万博後もスムーズに夢洲へアクセスできるようになり、湾岸エリア全体の開発も加速するだろう。
2) 国際イベントとリゾートの共存
万博終了後の会場敷地を、IRと連携したMICE会場やイベントスペースとして活用する構想も浮上している。
IRが常設の国際会議場を備えれば、規模の大きな展示会やフェスティバルを継続的に招致し、まちづくりの一大拠点に成長できる。
3) 大阪ブランドの再構築
「万博開催都市」「カジノを含む総合リゾート都市」という2つの顔を掛け合わせることで、より国際色豊かな都市としてのブランド力が高まる。
これにより海外企業からの投資やスタートアップの進出意欲を刺激し、関西全体を巻き込んだ経済の好循環を期待できる。
4. 課題とリスク: 持続可能な未来のために
一方で、IR導入に伴うギャンブル依存症対策や、土壌汚染・地盤改良など夢洲特有のコスト増リスク、さらには地政学リスクや国際観光需要の不透明さも無視できない。
万博・IRの両事業が軌道に乗るには、(1)地域社会の理解と合意形成、(2)厳格な規制と健全な運営、(3)長期的視点での資金調達と財務管理といったポイントが鍵を握る。
特にIRについては、日本独自の厳しい入場規制(国内客にの入場料や利用制限など)があるため、他国に比べてカジノ収益が伸び悩む懸念が指摘される。
その分、カジノ以外のエンターテインメントやMICEでいかに稼ぐかという発想が不可欠となる。
5. “万博後”を見据えた大阪再興への道
大阪・関西万博の準備が大詰めを迎え、世界各国の企業・メディアの目が大阪に集まっている。
ただ本当の勝負は2025年以降に始まるという見方もできる。
すなわち万博のレガシーを引き継ぎながら、大規模IRの開業をテコに大阪がアジア有数の国際都市として飛躍できるかどうか。
ここ数年が“未来の大阪”を左右する正念場と言えるだろう。
結び
大阪における再開発の“主役”は、目前の万博だけでは終わらない。その先に控えるIRこそが、「大阪を世界に誇る総合エンターテインメント都市へと変貌させるエンジン」になると期待される。
もちろん、その道のりには課題も伴うが、万博という短期的熱狂をうまく活用し、IRの成功モデルを築くことができれば、大阪は新たな「アジアのハブ」として輝きを増すだろう。