2025年2月17日、フランスの提案によって緊急の「欧州首脳会議」がパリで開催された。参加したのは、欧州各国の首脳に加え、EU、そしてNATOの代表者たち。今回の会議が「例外的」だといわれる理由は、議題が「アメリカ」のトランプ大統領による、ウクライナ戦争の和平交渉構想だったからだ。
欧州としては、本来ならNATOを通じて団結して対応すべき安全保障上の課題が、アメリカ政府の独自路線によって大きく揺さぶられている。アメリカが、ロシアとの直接交渉を模索する一方で、欧州各国やウクライナの当事者性を軽視する姿勢を見せているからだ。
ミュンヘン安全保障会議がもたらした波紋
このパリでの首脳会議が急きょ行われることになった背景には、直前に開かれた「ミュンヘン安全保障会議」(2025年2月14〜16日)の動きがある。そこで、トランプ政権のJD・バンス副大統領が演説を行い、次の二点が大きな注目を集めた。
- 欧州諸国が極右勢力を排除していることへの批判
- アメリカがロシアと単独で和平交渉を始める方針を明確化
とりわけ後者は、欧州各国に大きな衝撃を与えた。
第2次世界大戦以降、アメリカはNATOを軸に欧州防衛にコミットしてきた経緯がある。しかし、トランプ政権の「アメリカが独自に交渉を進める」という宣言は、その伝統的な枠組みを突き崩しかねない。つまり今後、欧州の安全保障において、アメリカがこれまでのようにNATOを通じた協調路線をとらない可能性が一気に高まったのだ。
ウクライナ抜きでの交渉に反発する欧州
ミュンヘン会議では、ウクライナ戦争の終結に向けたアメリカと欧州の立場の違いが改めて浮き彫りになった。
欧州側は「ウクライナ当事者抜きでの和平交渉は認められない」と強く主張している。一方、トランプ政権のウクライナ特使であるキース・ケロッグ氏は「欧州各国が交渉のテーブルにつく必要はない」という見解を表明。さらにアメリカ政府は欧州各国へ書簡を送り、「ウクライナの安全確保のために、各国が具体的に何を提供できるのか」を示すよう求めているという。
このように、アメリカは独自の交渉路線を突き進む一方で、欧州に対しては負担を増やすよう圧力をかける姿勢を明確にしたといえる。
欧州首脳会議で問われる「欧州の自立」
こうした事態に直面し、欧州が自前の安全保障体制を再構築する必要性に迫られているのは明らかだ。今回のパリでの首脳会議は、その一歩となる可能性が高い。
会議では、まず目先の課題として「ウクライナ戦争の短期的な和平に向け、欧州としてどんな支援を行うのか」が協議された。そのうえで、長期的には「アメリカが支援を後退させるリスクを踏まえ、欧州防衛をどう強化していくか」という大きなテーマが議論されている。
ここには、EUが検討を進めてきた「戦略的自立(Strategic Autonomy)」構想が関わってくるかもしれない。NATOとEUの関係性を再定義し、必要な軍備や人的資源の配分を欧州独自で管理・運用する仕組みを整備していく動きが加速する可能性もある。
アメリカとNATOの岐路
ウクライナ戦争が長引く中で、これまで欧州にとって“当然”とされてきたアメリカとの強固な協調体制が変質しつつある。NATO加盟国は、従来の防衛戦略を一から見直さざるを得ないだろう。とりわけ、NATO内で最大の軍事力を誇るアメリカが「自国の利益」を最優先する姿勢を鮮明にすればするほど、欧州は自立への道を強く意識せざるを得ない。
しかし、トランプ大統領は「ビジネスマンとしてディール(取引)を好む」と言われている。いわば、この独自交渉路線は欧州諸国から新たな譲歩や負担を引き出すための「揺さぶり」だという見方もできる。
欧州はどう動くのか
今後、欧州は真に「自前の防衛」を具体化できるのか。それとも、再びアメリカとの交渉によって、これまで通りの枠組みを維持していくのか。いずれにせよ、ウクライナ戦争をきっかけとして、欧州が自らの安全保障政策を根本から問い直す潮流は明確だ。
パリでの首脳会議を踏まえ、欧州のリーダーたちはどんなカードを切るのか。トランプ大統領の“取引”にどう応じ、NATOやEUを巻き込みながら新たな防衛の枠組みを構築していくのか。その行方が、今まさに世界の安全保障のゆくえを左右しようとしている。