Broadcomの躍進:NVIDIAに次ぐAI時代の勝者 - Journamics

Broadcomの躍進:NVIDIAに次ぐAI時代の勝者

AI競争におけるNVIDIAに次ぐ勝者に「Broadcom」が名乗りを上げた。ネットワーク半導体と企業向けインフラソフトウェアの二輪駆動で、AIインフラを支える立場を固めた。

直近では四半期のAI関連売上が50億ドル台に乗り、通年で約200億ドルの射程を示す。GPUの影に隠れがちな「つなぐ側」に、資本市場と顧客の視線が集まっている。


「一兆ドルクラブ」入りを果たしたBroadcom

2024年末、Broadcomは時価総額1兆ドルの節目を超えた。AI関連の強気な見通しが評価を高め、同年6月の決算発表では10対1の株式分割を告知、7月に実施して投資家層の裾野を広げた。AIは膨張するデータ交通を生み、基盤の増設は常態化する。Broadcomはその継続需要を、半導体の成長とソフトウェアによる安定収益で受け止める仕組みを作り上げた。

現在のBroadcomは買収で形づくられた。2018年にCA Technologiesを総額189億ドルで取得し、メインフレームを含む基幹ソフトウェアを一気に手中に収めた。翌19年にはSymantecの企業向けセキュリティ事業を107億ドルで買収し、23年11月にはVMwareの買収を完了して仮想化とマルチクラウドの中核を取り込んだ。狙いは規模誇示ではない。景気敏感なハードウェアと、ストック性の高いソフトウェアを組み合わせ、キャッシュ創出を安定させることにあった。


技術背景を探る

AIの処理速度とコストは、「計算」だけでなく「通信」にも左右される。通信の土台は大きく二系統あり、「InfiniBand」は高性能計算向けの専用規格で低遅延に強いが、機材や人材が限られやすい。一方の「Ethernet」は社内ネットワークでも使われる業界標準規格で、調達しやすく運用ノウハウも広い。

近年は「Ethernet」の改良が進み、AI用途でも実用十分な低遅延・高信頼を出せる領域が広がってきた。Broadcomはこの「Ethernet」陣営をAI向けに押し上げる役割を果たす。

同社の「Tomahawk」はデータセンター内でサーバ同士を結ぶスイッチ用ASIC(特定用途向けチップ)で、短距離・高密度のやり取りを高速にさばく。また「Jericho」はルータ/スイッチ用ASICで、深いバッファ(混雑時に一時的にデータをためる仕組み)と高速メモリを備え、混雑による取りこぼしを抑える。ポイントは、どちらも「Ethernet」の上で動き、運用の柔軟性を損なわずに性能を底上げできることだ。

他にも電力効率を引き上げる技術に強みを持つなど、標準規格の「Ethernet」を土台に、通信の待ち時間・同時処理量・電力効率を詰めている。結果として、調達のしやすさと運用の読みやすさを保ちながら、AI運用のスピードと導入コストの圧縮を提供している。


敏腕CEOのリーダーシップ

Broadcomの経営はCEOのホック・タン氏に集約される。買収後の統合では重複機能を削り、開発余力を高収益領域に寄せる。果敢な執行だが、株主資本に対する投資効率という一点では一貫している。

象徴的なのが報酬の設計で、同社はAI売上の達成レンジに連動する大型の株式報酬を設定し、未達なら全額失効という条件も明記された。トップのインセンティブを成長ドライバーに直結させる仕掛けは、対外的にもAIへ資源を集中させる宣言として作用した。


今後の展望とライバル

当面の焦点は三つに尽きる。第一にネットワークの主戦場だ。「InfiniBand」はレイテンシで優位を保つが、「Ethernet」は標準化と総所有コストで攻勢を続ける。大規模導入の現場では住み分けと最適化が進み、「Ethernet」の比重が高まるほどBroadcomの持ち場も広がる。

第二にカスタムAIアクセラレータである。特定顧客のワークロードに合わせた専用チップは、供給逼迫やコストに悩むクラウド各社の有力な打ち手になり得る。Broadcomはその受け皿になりつつあり、ネットワークと合わせてシステム全体の最適化を引き受けられる。

第三にソフトウェア事業だ。同社の「VMware」のサブスク化と価格体系の見直しは収益性を押し上げたが、欧州では大口ユーザーの反発が訴訟に発展する事例も出てきた。価値が価格を上回る実感を顧客に持ってもらえるか。軌道に乗れば安定した収益の柱となるポテンシャルを秘めるだけに、注目だ。


AIの覇者は、派手な計算能力だけでは決まらない。モデルを大きくし、止めずに回し続けるための道路と交通管理をどこまで賢く設計できるか。Broadcomは「Ethernet」という普遍的な規格をAI時代に耐える器に作り替え、電力効率を改善し、ソフトウェアで周辺を固めた。果たして1兆ドルは到達点ではなく通過点になりうるのだろうか。


引用元

Broadcom IR「Announces Second Quarter FY2024 Financial Results and Ten-for-One Stock Split」(2024年6月12日)
Broadcom IR「Stock Split FAQs」(2024年6月12日)
Broadcom IR「Completes Acquisition of VMware」(2023年11月22日)
Broadcom Newsroom「Ships Tomahawk 6: World’s First 102.4 Tbps Switch」(2025年6月3日)
Broadcom IR「Ships Jericho4, Enabling Distributed AI Computing Across Datacenters」(2025年8月4日)
Broadcom IR「Delivers Industry’s First 51.2-Tbps Co-Packaged Optics Ethernet Switch Platform ‘Bailly’」(2024年3月14日)