新時代の防災:「プッシュ型支援」とネットワーク - Journamics

新時代の防災:「プッシュ型支援」とネットワーク

災害大国、日本。
この豊かな列島に暮らす我々は、古くから「災害」と向き合って暮らしてきた。

それは令和の時代も変わらない。政府は、災害対策の司令塔となる「防災庁」の発足を計画し、災害時の初動システムである「プッシュ型支援」の強化を進めている。

特に、全国各地での物資備蓄拠点の整備が急ピッチで進められており、すでに東京都立川市の拠点整備が完了したほか、札幌市高知県熊本県にも新たな備蓄拠点の設置が決まった。

政府は、残る東北、中部、近畿・中国、沖縄の各ブロックでも順次拠点を整備する方針だ。

この取り組みの背景には、日本各地で想定を上回る豪雨・台風や地震・津波などが頻発し、自治体単独では十分に対応しきれない被害が発生している現状がある。


プッシュ型支援とは?

プッシュ型支援は、大規模災害時に被災自治体からの支援要請を待たずに、国が主導して物資や人材を迅速に投入する仕組みである。

2012年の災害対策基本法改正で制度化された。
この仕組みが必要とされた背景としては、従来型のプル型支援――被災自治体からの要請を受けて支援物資を送る方式――では、自治体自身が被害を受けて機能不全に陥った場合に、支援が遅れがちになるという課題があったことが挙げられる。

プッシュ型支援のもう一つの利点は、「被災地域で不足する物資の見極めと、供給のタイミングを国が一括してコントロールできる」という点だ。

例えば、台風や豪雨被害が事前に予測される場合、支援物資や支援スタッフを災害発生エリア近隣に事前配置しておくことで、災害発生後すぐに供給・活動を開始できる。
米国のFEMA(連邦緊急事態管理庁)が大型ハリケーン到来時に行う事前配置も、このプッシュ型支援の考え方が基本となっている。


過去の災害から学ぶ

国内では、2016年の熊本地震で初めて本格的なプッシュ型支援が実施された。
その際は263万食の食料などが迅速に被災地に届けられた。

このとき、東日本大震災(2011年)時に課題となった「食料や水などの初動時の不足」や「物資は届いているのに配送ルートがなく自治体が分配できない」という事態が大幅に緩和され、結果として避難生活の安定に寄与したと評価されている。

また、平成30年7月の西日本豪雨や令和元年の東日本台風でもプッシュ型支援が活用された。
大規模な道路寸断や広域停電などが発生する中でも、早期に飲料水や簡易トイレ、食料などが確保された。

こうした成功例により、近年では地方自治体もプッシュ型支援を前提とした災害対策マニュアルを整備するなど、全国的に制度の活用が進んでいる。


民間の力を活かす

プッシュ型支援の効果的な実施には、民間企業の協力が欠かせない。

トラック輸送に関しては、全日本トラック協会が47都道府県のトラック協会と緊急物資輸送協定を結び、災害発生時に車両やドライバーを迅速に手配できる仕組みを築いている。
これにより、被災地へ向かうルートさえ確保されていれば、必要な物資をスピーディに届けることが可能になる。

また、コンビニ大手のファミリーマートは、各自治体との間で災害時の物資供給協定を締結している。
店頭在庫だけでなく物流拠点の備蓄を積極的に被災地へ振り向ける体制を整備中だ。

さらには、味の素日清食品などの食品メーカーも自治体や内閣府と優先供給の協定を結び、災害発生時には無償提供や迅速な出荷を行っている。
実際には、カップ麺やレトルト食品など、長期保存が可能かつ調理が簡便な非常食が重宝される場面が多いため、こうした企業との連携は被災地の初動支援にとって極めて有効だ。


拠点のネットワーク化

政府が全国各地に災害備蓄拠点を整備する意図は、広域的な被害が予測される場合でも、複数拠点から分散して物資を供給できる体制を作ることにある。

一つの拠点から大量の物資を送るよりも、被害規模や交通事情を見極めながら、近隣拠点同士で連携して輸送計画を組む方が、輸送経路の分断リスクを軽減できる。

また、拠点自体が災害の被害にあってしまう可能性もあるため、複数のバックアップ拠点を持ち、他地域との相互支援協定を強化することも重要だ。

備蓄拠点には食料や飲料水の他にも、毛布や簡易ベッド、衛生用品、発電機など、避難所や医療機関で必要とされる多様な資機材が保管される。
自治体や関係省庁だけでなく、民間企業やNPO、さらには地域のボランティアセンターなども巻き込みながら、拠点をどのように管理・運営していくかが今後の課題となりそうだ。


災害はいつ起こるか分からない。そのため、政府が主導して「平時からの備え」を進めつつ、自治体や民間企業がそれに呼応する形で連携を深めていくことが必要だ。