2025年3月1日、アメリカのホワイトハウスでトランプ大統領(アメリカ)とゼレンスキー大統領(ウクライナ)が激しい口論を繰り広げた。
ロシアとの停戦交渉を巡って両者は譲らなかった。
トランプ氏は「取引に応じないなら米国は支援を打ち切る」と強い言葉で迫り、ゼレンスキー氏は「殺人者(プーチン)とは妥協できない」と譲らなかった。
また、J・D・ヴァンス副大統領(アメリカ)がゼレンスキー大統領に強い口調で「感謝」するよう求める場面も注目された。
結局、ゼレンスキー氏は予定されていた合意書に署名することなく、「米国は我々を見捨てるのか」と険しい表情でその場を去った。
「外交儀礼」からの逸脱
通常、外交交渉では首脳同士が公衆の面前で感情的に言い争うことは避けられる。対立があっても、公式の場では表面的に穏やかさを装うことが国際政治の常識だ。
しかし、今回はライブ映像を通じて両者の怒りや侮辱的な発言が明らかとなった。
外交儀礼を大きく逸脱したこの事態は、国際社会におけるアメリカの信頼性に疑念を生じさせるものとなった。
過去の類似事例
外交的な感情的衝突として著名な1959年の「キッチン討論」は、冷戦最中の米ソ対立を象徴する出来事だ。
モスクワで開催されたアメリカ博覧会でニクソン副大統領(アメリカ)とソ連のフルシチョフ首相(ソビエト連邦)が遭遇した。
フルシチョフがアメリカの家電製品を見ながら、「数年もすればソ連でも簡単に手に入る」と嘲笑すると、ニクソンは「あなたは新しい考えを恐れているだけだ」と反論し、資本主義の優位性を主張した。
フルシチョフもこれに激しく反論し、「あなたは共産主義をまるで理解していない!」と記者団を前に論戦を繰り広げた。
結果的には両国のイデオロギー対立を改めて世界に示すことになったが、互いに一定の節度を保ちながらの議論だった。
2019年、ロンドンで行われたNATO首脳会議では、トランプ大統領(アメリカ)とマクロン大統領(フランス)が緊張状態にあった。
トランプ氏がイスラム過激派組織のISIS戦闘員の欧州各国への引き取りを挑発的に提案すると、「真面目に議論しよう」とマクロン氏は眉をひそめて厳しく返した。
緊張が走る中、トランプは皮肉めいた口調でマクロンの返答を「史上最高の“答えてない回答”だ」と揶揄した。
二人は笑顔を交えつつも、その裏には深刻な意見対立が鮮明になった。
しかし、この論争も安全保障政策を巡るものであり、外交的な礼節は一定程度維持された。
2022年、バリ島でのG20サミットでは、習近平主席(中国)がトルドー首相(カナダ)に苦言を呈する場面が偶然カメラに収められた。
前日の非公開会談の内容がカナダ側から報道されたことを知った習氏は、公然と不快感を示し、トルドー氏に「真剣な対話を望むなら漏洩すべきではない」と詰め寄った。
トルドー首相は動じることなく「率直な意見交換はこれからも続ける」と返答したが、習氏は皮肉を込めた笑みを浮かべ、「ではまず条件を整えましょう」と突き放した。
この短いやり取りは、米中対立を背景に中加関係の冷え込みを如実に表したものだった。
これらは外交史に残る「緊張の瞬間」ではあるが、いずれも首脳たちは明確な侮辱や恫喝を回避し、一定の礼儀を保った。
そして対立したのはいずれも「大国」同士で、今回のアメリカとウクライナのように一方が圧倒的に巨大な関係、というわけではなかった。
今回の米ウクライナ首脳間の衝突は、過去の事例と比較しても、外交上の慣例やプロトコルを明らかに逸脱した前例のないものである。
団結する欧州、孤立するアメリカ
今回の騒動に対し、欧州諸国は即座にゼレンスキー氏への支持を表明し、ウクライナとの団結を再確認した。
ゼレンスキー大統領がアメリカに続いて訪問したイギリスで、スターマー首相は前日のトランプ大統領との険悪な口論とは全く異なる、友好的で歓迎の意を込めた態度を示した。
スターマー首相はゼレンスキー氏に対し、「外で聞こえる歓声は、イギリス国民がいかにあなたを支持し、ウクライナとともに歩むという我々の確固たる意思の現れだ」と述べ、ウクライナへの支持を改めて表明した。
またマクロン大統領(フランス)やショルツ首相(ドイツ)を含む各国首脳が、X(旧Twitter)上でゼレンスキー氏をメンションし連帯を示す投稿を行い、ゼレンスキー氏も「Thank you for your support.(支援に感謝します)」と返答していた。
以前もJournamicsでは「欧州が自前の防衛を模索する日—アメリカとNATOの岐路(リンク)」という記事で欧州の安全保障が、脱アメリカに舵をとりつつある現状を報じた。
米国の外交的影響力の低下が目立つ一方、欧州の存在感が今後さらに増す可能性がある。