「政治は結果だ」とはよく言うが、その裏側にある『いつ』『誰が』『なぜ』の物語を省みない政治は、しばしば短絡的な決定を招いてきた。2025年度の予算案成立をめぐる石破政権の攻防は、まさにその時間軸を読み解くことで全貌が見えてくる典型例だった。
本稿は、Journamics が予算案成立までを連続して報じてきた六本の記事、いわば“当時の実況”をもとに、節目ごとの政治的意味合いを掘り下げた「総まとめ」である。リンクを辿れば、当時の空気感とともにディテールを再確認できる “インデックス” 仕様にした。
Ⅰ 始まりは「少数与党」の焦燥(12月‐2月)
2024年12月27日、石破内閣は2025年度予算案の概算決定を閣議で了承した。しかし例年のように「与党‐衆院通過で安泰」という楽観は許されなかった。昨年末の衆議院選で自民・公明両党は過半数を割り込み、新年度予算は「少数与党」の手に委ねられる事態に陥っていたからだ。
この逆境下、政府・与党は年度内成立を目指し、野党に援軍を求める交渉を本格化させた。一方、野党各派は「政策綱領の実現」を天与のチャンスとばかりに矢継ぎ早に要求をぶつける。立憲民主は給食費無償化や介護人材待遇改善を、国民民主は「年収の壁」見直しを推し進めたい──まさに火花散る応酬となった。
そうした攻防の果てに飛び込んできたのが、2025年2月26日の速報である。
自公両党に、日本維新の会が教育無償化と社会保険料軽減をテコに合流、賛成票を確約したというニュースだった。軽妙かつ緻密に政策の落とし所を探り当てたこの合意は、以後の一連の駆け引きがどこへ向かうのかを示す「最初の灯火」となった。
Ⅱ 衆議院通過―舞台は参議院へ(3月)
2025年3月4日、衆議院本会議は約1カ月にわたる攻防の末、ついに2025年度予算案を可決した。少数与党の自公両党に加え、日本維新の会も賛成に回り、予算案の修正を経たうえで通過させたのだ。
今回の特徴は、政府提出の当初予算案が本格的に減額修正された点にあった。橋本内閣以来29年ぶりの「当初案からの目減り」は、教育政策や税・保険制度の構造改革を巡る与野党のせめぎ合いを如実に物語っていた。
衆院を通過した予算案は、憲法の規定上、参院で30日以内に採決を行わなければ自然成立する。しかし、少数与党の現状では維新をはじめとする第三極のさらなる協力が不可欠だ。
Ⅲ 再審議―高額療養費問題の波紋(3月7日‐9日)
衆議院通過からわずか3日後の3月7日、石破首相は思いがけない方針転換を宣言した。年度内成立が確実視されていた2025年度予算案にあった「高額療養費制度」の8月実施予定、「負担上限額の引き上げ」を見送るというのだ。
3月4日に衆院を通過した新年度予算案には、医療費負担の抑制策として高額療養費の上限額引き上げ(年収に応じた段階的負担増)が盛り込まれていた。しかし、患者団体からの強い反発や野党の追及を受け、石破首相は8月実施を一旦凍結。参議院での再審議を指示した。
予算案修正のためには、まず参議院で「修正可決」を得たうえで、衆議院に戻す──いわゆる“回付”の手続きを踏まねばならない。現行憲法下で予算案修正の回付事例は前例がなく、実現すれば初のケースであった。
何とか歩を進めてきた石破政権だが、少数与党ゆえ維新の同調なしには再可決が難しい。維新・吉村代表は、患者負担軽減を一貫して主張してきた経緯から、見送り表明を歓迎。反面、党内から「朝令暮改」との批判も噴出し、政権の舵取り能力が改めて問われる事態となった。
Ⅳ 政権危機―高額療養費制度と10万円商品券問題(3月13日‐14日)
3月13日、参議院での審議が佳境を迎えるなか、すでに通過済みの衆議院予算委員会が再招集される異例の展開となった。焦点は前述のとおり「高額療養費制度」だった。石破首相は委員会冒頭で深々と陳謝し、「厚労省からの報告を過信した自分の甘さ」を認めるに至った。
そして翌14日、石破首相の自民党若手議員15人への“10万円分商品券配布”問題が明るみに出た。首相公邸での会食を前に、各議員事務所に商品券を届けた行為は、「私費による贈り物」とする石破氏の釈明をもってしても、野党から「政治資金規正法違反の疑い」と強く追及された。公明党からも「国民感覚を逸脱している」と苦言が漏れた。
Ⅴ 正念場―年度内成立か暫定予算か(3月24日)
年度末のカウントダウンが始まった。新年度の幕開けまで残り一週間、2025年度予算案は依然として参議院の通過を待っていた。憲法60条の規定通り、このまま高額療養費制度について”修正する前”の予算案が自然成立してしまうと、混乱は必死だった。
“憲法60条のタイマー”が刻々と迫る中、野党は「審議時間も手続きも不足している」と、暫定予算の早期編成を回避策と位置づけた。
実際、この国会に先立つ歴史を見ると、予算編成の“つなぎ”として暫定予算を用いた例は少なくない。1992年の政治資金汚職、2008年のねじれ国会、2011年の大震災など、いずれも本予算が年度末に間に合わず、行政サービス停止を危惧した暫定措置が取られた。
政府・与党は暫定予算ではなく「年度内成立」を至上命題と位置づけるが、もはや残された時間は僅かだった。
Ⅵ 歴史的成立―年度最終日の大逆転(3月31日)
年度末ぎりぎりの夕刻、参議院予算委員会は緊張のうちに最後の採決を迎えた。3月31日午後、慣例を破り参院で再修正された予算案が可決される光景は、まさに前代未聞の政治劇だった。
高額療養費制度について、政府・与党は約105億円を予備費で賄うことで財源を確保し、総額115兆2000億円を維持。自公両党と維新が賛成した。
同日夕方、再修正案は衆議院に“回付”され、野党の一部懸念を尻目に夕刻の本会議で同意多数を獲得。憲法60条が定める「衆院優越」のタイマーが刻まれる中、初めての“参院修正→衆院同意”による本予算成立が目前に迫った。石破首相は採決後、野党理事と握手を交わし、「常識を打ち破ってでも国民生活を守る」と政権の求心力を強調した。
まとめ
時系列を丁寧に追ってこそ、政治における流れやパワーバランスを見極めることができる。あなたは、この一連の政治劇をどう読み解くだろうか?
本国会の異例の動向についても、2024年の衆院選による国会のパワーバランスの変化に端を発していた。そして国会中の各党の動向は、来る今年の参院選を見据えたものであった。Journamicsでは、今後も重点トピックについて丁寧な記事作成を心がけていく。