2025年3月7日、石破首相が予算案の再審議を決定した。「高額療養費制度」の見直しのため、今年8月からの負担上限額の引き上げを見送る方針となった。
予算再審議の背景
2025年度予算案は3月4日に一般会計総額約115兆2000億円で衆議院を通過した。自民・公明の与党に加えて、野党の維新が合意した修正案には、「教育無償化」や「年収103万円の壁」対策が盛り込まれた。
しかし、通過直後の3月7日、石破首相は高額療養費制度の8月引き上げを見送ると表明。患者団体の反発と与野党の声を受け、「丁寧なプロセスが必要」と方針転換した。
この変更を予算に反映するには、参議院で修正案を可決し、衆議院に「回付」する手続きが必要だ。
異例の予算修正は、与党の計画に狂いを生じさせ、年度内成立(4月2日が自然成立期限)への道を複雑にしている。
予算回付とは?
通常、政府が提出した予算案は、まず衆議院で可決された後に参議院に送られる。参議院が可決すればそのまま成立だが、修正を加えた場合は、その案が衆議院に「戻される」のが回付だ。
衆議院は戻ってきた修正案を見て、「賛成」か「反対」を決める。賛成なら修正案が成立し、反対なら両院で話し合い(両院協議会)へ。それでも決まらない場合、憲法のルールで衆議院の意見が優先される。いわゆる「衆議院の優越」だ。
今回は高額療養費見送りを予算に反映させるため、このレアな手続きが注目されている。実現すれば、現行憲法下で初のケースとなる。
苦しい「少数」与党
そもそも、自民・公明は衆議院で過半数を失い、維新の賛成で予算案を通過させた経緯がある。石破首相は「国民生活の充実を」と強調するが、党内からは「朝令暮改」との批判もある。与党は参院選を控え、支持率低下と政策調整の板挟みに苦しむ。
高額療養費見送りは患者に歓迎される一方、財政健全化との両立が課題となり、与党の指導力が試される局面だ。
「鍵」を握るのはやはり維新か
維新は衆議院で予算案に賛成した唯一の野党だ。参議院で修正案が回付されれば、衆議院での再同意が必要だが、維新の協力がなければ成立は困難となる。
つまり鍵を握るのはまたしても維新だが、現状は「百条委員会問題」で苦境にある。また開幕直前となった「EXPO 2025 大阪・関西万博」に注力したい、という本音もあるだろう。国民感情を意識すれば、見送りの支持が自然な選択となる。
実際吉村代表は3月7日、「高額療養費引き上げ見送りに賛成」「上限引き上げには反対」と明言。一貫して患者負担軽減を主張してきた立場を強調した。
予算案の行方は、引き続き与野党の駆け引きにかかっている。石破政権は秋までの再検討を約束したが、国民生活と財政のバランスをどう取るか、明確な道筋はまだ見えない。